第117章 戦慄②
「他の奴を優先しろ。」
「もう終わりました。あとは、駄々をこねる兵士長だけです。」
「………ちっ………。」
リヴァイ兵士長は不機嫌そうに石垣に腰かけ、足を差し出した。今私に会いたくない、話したくもないのかもしれない。
けれど――――、治療だけはしておかないと。
気まずい空気の中、その足元にしゃがみ込んで左足に手を添える。
「――――失礼します。」
腫れてる。
捻挫のような軽さじゃない。
骨にひびが入っているかもしれない。リヴァイ兵士長が怪我をしたところなんて見たことがないから、こんな些細な怪我ですら怖い。
手が震える。
「………なんで震えてる。」
「――――震えてません……!」
「………震えてるだろ、どう見ても。」
「――――今回は、こんな怪我で、済んだけれど………。」
「あ……?」
「いつか命に関わるような怪我をするかもしれないと思うと――――……怖くてたまらないです………。」
私の言葉の意味が理解できないと言った表情で、リヴァイ兵士長は私を見下ろした。
「――――いつ死ぬかもわからねぇしな。」
「――――……嫌だ………。」
「嫌ってなんだ。そんなこと言ったって―――――………。」
私がリヴァイ兵士長を見上げたその目を見て、その先の言葉を彼は飲み込んだ。
「――――あいつらの死を、見届けてくれたのか。」
「………居合わせた、だけです……。」
「礼を言う。」
そのリヴァイ兵士長の言葉が胸に突き刺さる。
何の礼を?
私は戦うこともせず、誰も守れず、ただその死にゆく瞬間から―――――目すら逸らした。
「………なにも、できませんでした………。」
「あ?」