第117章 戦慄②
門の内側で私たちにかけられた言葉は、そのほとんどが罵声に近いものだった。
エルヴィン団長への責任追及の声や、税金の無駄遣いだ、犬死にだ、など――――目の前で沢山の仲間を失って憔悴しきっている私たちの心を抉るには十分だった。
エレンが目を覚まし、ことのあらましをミカサに聞いて――――涙を堪えられずに手で隠して、泣いていた。
私はただ、生きて戻って来てくれて良かったと――――その想いを込めてエレンの頭をそっと撫でた。
それからカラネス区の宿舎で怪我人の手当に奔走した。
けが人はそれほど多くない。なぜなら怪我をする間もなく――――多くが、女型の巨人に殺されたから。
沸き起こる混沌とした感情を抑え込みつつ、あの人を探す。
さっき、馬から降りた時の歩き方がやっぱり変だった。
うろうろと探し回ると、宿舎の裏の厩舎の隅で、水に足を浸す彼の姿があった。
声をかけていいものだろうか。今きっと、仲間を失ってその心が随分削がれてしまっている。
でも、治療は早い方がいい。意を決して私は声をかけた。
「――――リヴァイ兵士長……。」
「…………。」
リヴァイ兵士長は黙って振り向いて、私をじっと見つめた。
「――――なんだ。」
「足、怪我されてますよね。診せて……ください。」
私が医療用具を持って駆け寄ると、冷たい視線で来るな、とばかりに制された。
「――――大丈夫だ。」
「大丈夫じゃないです。」
「大丈夫だ。」
「―――――あなたが辛そうなのは、私が大丈夫じゃないんです!診せてください……!」
いつかどこかで聞いたことがあるやりとりを、懐かしく反芻する。あああの時―――――あなたはこんな気持ちだったのか。