第116章 戦慄
―――――――――――――――――――――
リヴァイ兵長が『剣を抜け』と言ってから数秒も経たず――――、それは姿を現した。
馬で駆けながら振り向きざまに見たそいつは、今まで見た巨人とは全く違う運動精度と、それを可能にするための筋力を備えた体。
アンバランスで気持ち悪ぃ今までの巨人とはまるで違う。
それに――――金色になびく髪の間から見えたその女型の巨人の目は、確かに物語っていた。
俺を見た瞬間に―――――“見つけた”と。
「くっ、この森の中じゃ事前に回避しようがない!」
「速い…!追いつかれるぞ!!!」
みるみる距離を詰めてくるその女型に対抗するために、ペトラさんが兵長に呼びかける。
「兵長!!!立体機動に移りましょう!!!」
兵長もその距離を見て剣を構えたが、その瞬間に女型の巨人の背後から2名の兵士の増援が駆けつけた。手練れの先輩兵士2名が女型の首元に向かって切りつけるべく近づくのを見た。
だがその2人の動きをちらりと横目で見て、その立体機動の軌道を完全に読み、兵士を自分の背中と大木との間であっけなく圧死させた。もう1人も当たり前のように手で掴んで――――ごみのように、大木に打ち付けて、真っ赤な血を吹かせた。
――――食いもしない。
まるで邪魔する者は当然とでも言うように、あっけなく、無残に、容赦なく――――――殺した。
けれど相手が悪い、お前が追っているのは人類最強が率いる、巨人殺しの達人の集団だと――――、リヴァイ班の面々が、仲間を屠ったその女型に向かって刃を振るうことを期待した。
けれど兵長は一向に立ち止まらず、迎え撃つどころか音響弾を放った。
「――――お前らの仕事はなんだ?その時々の感情に身を任せるだけか?そうじゃないだろう。この班の使命は……そこのクソガキに傷ひとつつけないよう尽くすことだ。命の限り。」
その言葉に、俺は大きな思い違いをしていたのだと気付いた。
俺を監視する、それは名目であって――――その先にこの人たちは、何をしようとしているのか。