第116章 戦慄
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「エルヴィン団長!伝達です!右翼索敵一部壊滅!索敵能力機能せず!」
「――――ああ。」
エルヴィン団長はその絶望的な報告を眉一つ動かさずに聞いていた。私は右翼に配された兵士の名前と顔、そして最近交わした会話などが次々に蘇る脳内をなんとか落ち着かせるように頭を横に振って雑念を振り切った。
――――今そんなことに頭を使っている場合じゃない。
私は私のやるべきことを。
事前にエルヴィン団長からも言われている。
今回私に課せられているのは――――
『医療行為は後回しで、ひたすらに洞察せよ、ですか……?』
『そうだ。』
『―――死傷者がたくさん出そうな調査だと聞きましたが――――。』
本当にそれでいいのか、少しでも、1人でも死ぬ兵士減らすことに私は注力すべきでは?と質問を投げかけようとして、やめた。
エルヴィン団長は私が人の命を救うために生きて来たこともを知っている。調査兵団で、少しでも死傷者を減らすために医療班の編成や育成に注力してきたことだって知っている。
それでもなお私に、目の前の仲間の命よりも優先せよと言うのは―――――、その先に、もっともっとたくさんの人の命が関わる、人類の未来に関わるほどの何かを任せようとしてくれているからだ。
『――――はい、承知しました。』
『君は物分かりが良すぎて、時々心配になる。』
エルヴィン団長がはは、と小さく笑った。
『あなたと生きると決めたときから、それなりの覚悟はしています。』
『――――実に頼もしい。』
『敵の様子をひたすら記録せよということですね?』
『そうだ。捕獲できるに越したことはないが、相手は人間だ。私たちと同等の知性がある巨人なら、何が起きても不思議じゃない。万が一取り逃がしてしまっても――――、情報があればあるだけ次に繋がる。君の洞察力と観察眼は兵団の中でも群を抜いている。頼む。』
『――――はい……!』