第116章 戦慄
俺の言葉に、エレンは隠す素振りもなく腑に落ちていないという顔をした。
だがエレンだけじゃない。全員がこの意味不明な陣形の変化に不安そうな面持ちだ。
作戦通りにしか運ばないことなんてない。
むしろ想定外のことが起こって当たり前だ。だからこそ自分の頭を必死に回して考え、常に最悪の想定から最善の行動を頭の中に描く。
敵の数は、思惑は?
戦況は?
陣形は?
被害状況は?
地形は?
残る資材や武器は?
―――――あらゆる情報を組み上げて考える。
言われた通りにしか動けねぇ奴は結局のところ、すぐに死ぬんだ。
「兵長を信じています。」そう言いながら自分で判断することを放棄し、俺の目の届かないところであっけなく死ぬ。俺はそんな奴を―――――嫌程見て来た。
だがエルド、ペトラ、オルオ、グンタの様子を見る限り――――、胸中渦巻く不安はあれど、考えようとしている。
相当ビビッてはいるようだが、決して悪くない顔だ。
次の瞬間、どどど、ごおっ、と響く地鳴りと共に――――風を裂く轟音が耳に入った。
「な……何の音?!」
「すぐ後ろからだ!!」
「右から来ていた何かのせいか……?」
――――来やがったな。
この音だけでも十分な情報になる。響く地鳴りのような足音は、10m級以下ではここまでの轟音にはならない。少なくとも10m以上の巨体。
そしてその巨体で風を裂くような轟音を生めるのは、一介の巨人共とは比にならない運動精度と想像できる。何より人間がその身体を纏っているのなら――――、俺達と同等の知性があるに決まってる。
「お前ら。剣を抜け。」
騎乗したまま最速で馬で駆け抜けながら、剣を抜く。
いつ現れてもおかしくない。
「それが姿を現すとしたら―――――一瞬だ。」