第116章 戦慄
「――――第57回壁外調査を開始する!前進せよ!!!!」
エルヴィンの合図と共に大部隊が砂埃を上げて、馬蹄が起す地鳴りとともに駆け出した。
「――――死ぬなよ。」
俺が小さく零した言葉は当たり前のように掻き消されて、届くはずもない。
門をくぐった先の旧市街地には、すでに先陣を切って戦う援護班の兵士が飛び回っている。
旧市街地を抜けて平野に出ればすぐに長距離索敵陣形を展開、ここからはエルヴィンの意志ひとつでこの巨大な陣形が生き物のように意志を持って動いていく。
―――――そう、普通の調査ならば。
右翼側からの赤や黒の煙弾と、それをかわすように進路を徐々に東に向かわせる緑の煙弾。
陣形外側の班は既に交戦が始まっているだろう。
それを察したのか、エレンが不安そうな表情を見せた。俺達の中央後方は最も安全な、守られた位置だ。もっとも―――――まだこの段階で、俺達が交戦せざるを得ないような状況にでもなったとしたら―――――、それはもうこの作戦の失敗を意味する。
すなわち人類の敗北だ。
「―――――口頭伝達です!!」
しばらくして右翼側から伝達が着いた。
ひどく焦燥した様子で語られたそれは、予想通りのものだ。
仕掛けてきやがったな。
何者かが、エルヴィンの撒いたエレンという餌に―――――食いついた。