第115章 継受
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訓練を終えて夕方。団長室でエルヴィン団長の執務を手伝いながら過ごしていると、ドアが鳴った。
「失礼します!アルミン・アルレルトです!」
「ああどうぞ、アルミン。」
エルヴィン団長の許可のあと扉が開くと、緊張した面持ちのアルミンが立っている。
「失礼、します……!」
すごく緊張している。そりゃそうか、新兵が団長室に呼ばれることなんてほとんどないから。
「アルミン、来てくれてありがとう。ソファに座ってくれ。飲み物はコーヒーか紅茶か?」
「あ、ありがとうございます…、ではコーヒーを。」
「ナナ、アルミンにコーヒーを頼む。」
「はい。アルミン、お砂糖とミルクはいる?」
「いえ、要らないです。」
「そう。」
「コーヒーが飲めない私の補佐官よりも、アルミンの味覚の方が大人のようだ。」
エルヴィン団長が小さくふふ、と冗談を言って笑う。
「うるさいですよ団長。私だって、飲もうと思えば飲め……ます……。」
「以前は物凄く眉間に皺を寄せてたが?」
「……意地悪。」
「はは。」
少しでも緊張をほぐそうとしてみたのだけど、アルミンは終始、背中をぴんと伸ばしたまま、緊張した面持ちだった。
エルヴィン団長とアルミンの手元にコーヒーを置いて、自分の分のコーヒーをエルヴィン団長の横に置く。
本当は紅茶にしたかったけど……エルヴィン団長は意地悪だ。
私の手元のコーヒーをちらりと見て、僅かに口角を上げたこと、私は気付いてる。2人きりになったら、拗ねて見せてやるんだから、と思いつつミルクを沢山入れようとした手が思わず止まって、控えめに垂らしたミルクが漆黒の液体の中に螺旋を描いた。