第115章 継受
「何を照れる?」
「………エルヴィンはそれでなくてもかっこいいんだからさ。」
「うん?」
「そんな甘い言葉をおいそれと使っちゃ駄目。女の子は骨抜きにされちゃうよ?」
ナナは目を逸らしたまま赤い顔を隠すように少し俯いた。その顎を指で掬って目線を捕らえると、またその大きな目を開いて俺を映す。
「――――骨抜きにしたいのは君だけだ。――――しかもなかなか手ごわい。」
「――――手ごわいほど滾るのがエルヴィンだもんね。」
「そう、よく知ってるじゃないか。」
当たり前のように距離が縮まって、触れるだけのキスをする。まるで、団長と補佐官に戻るためのスイッチでも切り替えるように。
「――――さてナナ、今日は少し時間がとれそうだから、夕方にアルミンを団長室に呼んでくれるか?」
「アルミンを?」
「壁外調査で彼が無事戻る保証はない。まあ私たちもだが。その前に、彼の祖父のフリゲン・ハーレットについて聞いておくに越したことはない。」
「承知しました。声をかけておきますね。」
「頼む。」
言いながらお互い兵服を身にまとう。
―――寝る時間を惜しんででもやるべきことはあると思ってここ数週間過ごして来たが――――、ナナを抱いて眠るとここまで心も身体も休まるなら、さっきナナが言ったとおり、毎日彼女の誘う甘露な眠りに落ちた方が色々と効率が良いのかもしれないなと思う。
まんまとナナの思惑通りに俺は動いてしまうわけだ。
こんなにも誰かに影響される自分がいるなんて、また新しい自分を見つけた心地だ。