第10章 愛執
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ナナは見たくなかったものを見せつけられたかのように、呆然と立ち尽くしていた。今日だけで、こいつは色んな表情を見せた。
口づけを落とした時の、驚いた顔。
頬を紅潮させながら、それを受け入れた時の切ない顔。
照れたように笑った顔。
初めて、俺に怒りをぶつけた顔。
そして自身に失望している顔。
そのどれもが、俺の言葉や行動によるものだと思うだけで、高揚する。
他の奴に泣かされていたら、そいつを殺してやりたいと思うくせに、俺の為に泣けばいい、その大きな眼に溜まった涙、零れ落ちる涙すべてに、俺が映ればいいとすら思う。
このどうしようもなく歪んだ欲は、もはや目を背けることすら出来ないほど大きくなっていた。
「―――――――俺も同様だ。俺の振る舞いが、あいつを焚き付けたんだからな、サッシュを責められる立場じゃねぇ。」
「………そんなこと………。」
「………専属補佐の任を、解いてもらえるようエルヴィンにかけあおう。」
「…………!!」
「もともとの提案通り、団長の専属補佐として従事すればいい。あいつなら………。」
ナナは、目を大きく見開いて、俺を見上げた。
「迷惑を………かけたから…………?」
「………違う。」
「補佐としての仕事が足りてないなら、……もっと頑張ります……っ!」
「………違う、そんなんじゃねぇ。」
「………いや………です!……もっと頑張るから………っ………!」
「ナナ………。お前がどうこうじゃねぇんだ。俺はどうやら、お前を守れそうにない。むしろ――――――。」