第114章 日々 ※
それからまたお互い無言のままひたすら資料と向き合う時間を経て――――気が付けばもう日が変わってから随分経っている。
また、エルヴィン団長の眠る時間がここ最近ほとんどとれていない。私室のベッドで眠っていないんじゃないかと思う。明け方になるまで仕事をして、湯を浴びてソファで少しの仮眠をとる。その繰り返しだ。
私はいつも日が変われば『休みなさい』と強制的に部屋に戻らされてしまうから、ずっとずっと心配している。
もともと睡眠が少なくても平気だと前から言っていたけれど――――、医者から言わせてもらえば、睡眠が不足していることに害はあれど一利もないんだ。
だから――――なんとかして休んで欲しい。
「―――それが終わったら一段落できますか?」
「―――いや、あともう少しあるが、ナナは休んでいいよ。今日も助かった。」
「―――嫌だ……。」
私が呟くと、驚いたようにエルヴィン団長の手がピタ、と止まった。机に伏せられたその目線がゆっくりと私の方に向けられた。
「どうした、補佐官のナナにしてはらしくない我儘だ。」
「休みましょう、一緒に。3時間でもいいから。――――ほとんど眠ってないの、知ってます……。」
「そうだな、でも―――――。」
「エルヴィン団長の体調が万全でないと、兵団全体の指揮に関わります。もし私がまだ出来ることがあるのなら、一緒にやらせてください。そして、ベッドでちゃんと眠ってください。」
「―――君が添い寝してくれるなら考えてもいい。」
「えっ。」
「君が側にいてくれれば意味のある睡眠がとれる。」
「――――いいですよ。喜んで。」
「………じゃああとこの作戦企画紙のチェックを一緒にやってくれるか?」
「はい!」
嬉しい。
私が少しでも力になれたら、エルヴィン団長に少しでも休んでもらえる。
時計が深夜を差しても、私は全く眠くなんてならなくて。エルヴィン団長の隣で、複雑な作戦企画紙を見直しながら修正を加えていった。