第114章 日々 ※
――――いい子達だな。
とてもこの中に敵がいるとは思えない。
でも私はこの時気付いていなかった。この私たちの微笑ましいやりとりを、一片の情報も見落とさないでおこうという意志でじっと見つめていたその視線に。
「――――ナナ。」
私を呼ぶその低い声に振り返ると、エルヴィン団長の姿が目に入った。
「――――エルヴィン団長。」
一斉に新兵たちの背中がぴん、と伸びて、まるでさっきの喧騒が嘘のように、硬直した。まるで借りて来た猫みたい。……そうだよね、組織の長の前ではそれはそれは緊張するよね。
「――――僅かな休憩しか与えられずに申し訳ないが、まだまだ君の手を借りたいことが山積みだ。頼めるか。」
「喜んで。」
その蒼い瞳を見上げて微笑む。
そんな私の返答を聞いて、エルヴィン団長もまたふっと僅かに笑みを零した。
「――――では、頼む。………新兵の皆も、早く休めよ。」
『は、はいっ!!!』
「――――話せて嬉しかった、じゃあまた明日ね、みんな。」
新兵のみんなに笑顔を向けて、エルヴィン団長について団長室に向かった。
「――――なんか。」
「あ?なんだサシャ。」
「絵になりますねぇ、あの2人。」
「あぁ、まあそうだな。」
サシャが2人の後ろ姿を眺めながらふう、と息を吐いた。
「――――ナナさんのあの表情と団長のあの表情………。」
2人のやりとりを見ていたアルミンが、小さく呟く。
彼の目にはエルヴィン団長を見つめるナナの視線も、ナナを見つめるエルヴィン団長の視線も、大きな信頼と熱がこもった特別なものに見えた。