第114章 日々 ※
「――――化け物なんかじゃない。あなたは特別な力を偶然持っただけの、ただの人間の男の子。大事な、私の家族。」
重ねた掌から、今度は私が指にきゅ、と力を込めてその手を握る。エレンはぐっと俯いて、まるで少し涙を堪えているように見えた。
「――――人類の為に戦おうとしてくれて、ありがとうエレン。」
「――――………。」
しばらく掌を重ねたまま、その同じ温もりが重なり合うことでエレンの気持ちが安らげばいいと、そう思った。
しばらくしてエレンは、少し熱を宿した目で私を見つめた。
「――――ナナ、もっと触れたい。」
「えっ。」
重ねていた掌をほどかれたと思った矢先、その手は力強く私の腕を掴んで引き寄せようとする。
「エ、エレンそれはちょっと―――――。」
私は身体を硬直させるように抵抗した。
困る、とかそう言う事じゃなくて――――そんなことをしたら、あなたが痛い目に遭う。
「――――おいクソガキ。盛ってんじゃねぇ。」
遠くからでも分かる、人を射殺してしまいそうなその目でリヴァイ兵士長からの威圧がエレンの行動を制した。
「――――……ちぇっ……。」
エレンは悔しそうに呟くと、その場から立ち上がった。
「―――戻る。ナナも帰るんだろ?今ならまだ完全に月が昇るまでに帰れる。」
「うん………。」
背を向けて古城に引き返すエレンを追って、リヴァイ兵士長が近づいて来る。
すれ違いざまに流されたその視線は、不機嫌そのものだ。
「――――ちっ、やっぱりじゃねぇか。」
「いえ、その……彼も……溜まってるものはあると思うので、その衝動かと……。」
「――――……まぁ若いからな。」
「………!!いやっ、あのそっちじゃなく……鬱憤とか、不安とかという意味です……!」
「両方だろう……あいつにあまり近づくな。若いってのは制御が効かねぇ。いつか食われるぞお前。」
「食われませんよ………!」
「どうだか。」
ふん、と鼻を鳴らしながら『そらみろ』という顔で私に意地悪な視線を残して、リヴァイ兵士長はエレンを追った。