第113章 奏功
「――――あそこまで自分は信用されてなかったとは……。」
そりゃあショックだろう。
ナナの話じゃこいつは元々調査兵団に入って巨人を淘汰することを目的としていた。
――――エレンが巨人化したあの日も、壁外調査に出立する俺達を憧れの眼差しで見ていたようなガキだ。
意とせぬ力を持っちまって、本来なら誰よりも信頼関係を築いて共に戦うはずだった仲間や先輩から、とたんに化け物扱いだ。
――――多少、同情すらする。
だがあいつらの行動は“生き抜くために”最善だったと言える。あの場面、慣れあった相手だからを背後をとらせたり――――、刃を抜かないような奴らを、俺は選ばない。
迅速な判断。
時にそれは非情な判断になりうることもある。
それでも迷わず動ける、そんな4人だ。
この話をエレンにしたところで、エレンの心についた傷は癒えるとは思えねぇが、あいつら4人はきっとエレンに刃を向けたことに少なからず罪悪感を抱いたはずだ。
そんな少しの甘っちょろい人間味がある。
それでいい。
だから絆を深められる。
それからハンジに呼びつけられた部屋に向かうと、今回のエレンの想定外の巨人化は、どうやら“スプーンを拾う”という行動目的が引き金になったという推論に達した。
――――次から次へと、不可思議なことが沸いて出やがる。
目的意識を持てば巨人化できる。
それは即ち―――――巨人の力を“何か”に使うために意図的に作られた能力だという線が濃い。
壁の外にひしめく巨人どもも――――“人を食う”用途として意図的に作られたとしたら。
そんなことができる生き物が―――――“神”か“人間”以外にいるのなら、お目にかかってみたいもんだ。
まぁそれが、壁内の人間の仕業なのかはたまた、ナナの夢見る優れた文明があるかもしれない“外の世界”の人間の仕業なのかは、わからねぇが。
―――――とはいえこの狭い壁の中で、人を巨人化させる研究や実験を完全に情報を漏らさずできるとは考えにくい。
ハンジの表情が、ほんの少し曇る。
おそらく俺と同じ想像をしたのだろう。