第113章 奏功
「準備はいい?エレン!」
「はい!」
枯れ井戸の上から俺を覗き込むハンジさんに返事をした。どうなるかわからないけど――――やるしかない。
合図の信煙弾を確認して、俺は自分の手を噛んだ。
「――――……え……?」
一向になにも起こらない。
噛み方が悪いのか……場所を変えて、先ほどよりも強く、皮膚が裂けて血が出るほど噛む、を繰り返す。
口の中は血まみれだ。
それなのに一向に―――――巨人になれる気配がない。
意気消沈のまま休憩に入ったけど、兵長からは今にも殺されそうな視線で『なんとかしろ』と言われる。
なんとかしたいのはやまやまなんだが……と、ふう、とため息交じりにコーヒーをかき混ぜようとスプーンを手に取った時、腕の痛みから手を滑らせてスプーンが落ちた。
それを拾おうとした時にまさかの――――――爆音と爆風、閃光が走ったと思えば―――――俺の右手は、巨人のそれになっていた。
「な?!!?なんで、今頃………っ……!」
なんとかして自分の腕を、その急遽出現したハリボテのような巨人の腕から抜こうと試みる。
悲鳴交じりの雑音がひしめくその中で、一際冷静なリヴァイ兵長の声が響いた。
「――――落ち着けと言っているんだ。お前ら。」
――――お前、ら?と不思議に思って兵長の方を見ると―――――、今にも俺を殺そうという目で抜刀した、ペトラさんとエルドさん、グンタさんにオルオさんの姿があった。
其の目は畏怖と――――化け物でも見るような、そんな目だ。
いつだってそうだ。
俺に向けられる視線はいつだって―――――……。