第112章 狐疑
翌日。
大勢の新兵の前にエルヴィン団長が立った。
調査兵団への勧誘をするためだ。
そして―――――、彼はあたりをつける気だ。新兵の中に敵が潜んでいるなら、エレンの情報を最も得やすい調査兵団に入る可能性が高い。兵科を決めたその瞬間の、その子達の表情から推察するつもりでいる。
その舞台袖で、様子を見に来ていたエレンがエルヴィン団長を見つめている。私も同じく舞台の裏からそっとその様子を見ていたのだけれど、背後からいつもの不機嫌な声が飛んできた。
「―――おいナナ。何やってる。来い。作戦概要をこの間にお前から聞けと言われている。」
「はっ、はい!」
あえてこの時間にリヴァイ兵士長への作戦の伝達をさせたのも――――、おそらく新兵の中に敵が紛れ込んでいる可能性が高いとエルヴィン団長は思っているんだ。
全員がエルヴィン団長の目の前に晒されているこの時間は、身動きが取れないはずだから。
対策本部の一室で、概要の資料を広げる。
ことのあらましを全て、エルヴィン団長が私たちに話してくれたことを一言一句逃さずにリヴァイ兵士長へ伝えた。
「――――なるほどな。あいつらしい策だ。」
「はい……。」
「――――止めたのか?」
「え?」
机の上の資料を見ていたリヴァイ兵士長がぱっと顔を上げて、私の目を見る。
「――――お前は許せねぇだろう、こういった犠牲の多い作戦は。」
「――――いえ、止めていません。」
「そうか。意外だ。」
リヴァイ兵士長はならいい、とばかりに目線を外した。
「――――甘い戯言ばかりだと、結果失うものが多くなる。非情とも言える決断も作戦も、するべき段階に今――――来ているんだと、そう理解しています。」
「………ちっ、変なところは物分かりがいいなお前は。」
「ふふ、褒められたと思っておきます。」
「それで。ハンジは拘束兵器の開発……ミケは隊編成……お前は資金交渉……?」
「はい。この後王都へ発ちます。」
「――――まさか一人でか。」
「??はい。」
「――――てめぇは……中央憲兵やら変態やらに何されたか、記憶でもトんでんのか?」
リヴァイ兵士長は腕を組んで、頭を垂れるほどに呆れた、と表した。