第112章 狐疑
「――――了解。エルヴィン。私は急いで捕獲用の拘束兵器を手配しよう。ただ多額の資金が必要になるけど――――。」
「ハンジさん、資金面の交渉は私に行かせてください。懇意にしているリーブス商会や、王都の出資者にも多少の面識とツテがあります。宜しいですかエルヴィン団長。」
「ああ、任せよう。」
「宜しくナナ!じゃ私は早速技巧班に相談を持ち掛けるね。」
「はい!」
「こうしちゃいられない。一時間でも惜しいくらい時間がない。私は先行くよ!」
そう言ってハンジさんは興奮気味に部屋を去った。部屋の外で『ほらモブリット、これから大忙しだ!行くよ!』と明るい声が聞こえた。
「―――俺は隊の編成をやろう。」
「ああミケ頼む。ここ最近の各兵士の状況を踏まえて――――采配は任せる。」
「承知した。ところで……ナナは行くのか?待たせた方が――――……。」
ミケさんがチラリと私を見た。
リヴァイ兵士長と同じく、私の身を案じて下さっているのだろう、その気遣いが嬉しくもあり、少し寂しい。
ミケさんのその言葉を、エルヴィン団長はハッキリと打ち消した。
「――――ナナは連れて行く。医療的なところはもちろんだが、私のもう一つの頭になってもらう。隊編成から各兵の位置情報まで全て正確に、時間の経過と共に変化する情報まですべてこの頭の中で集約してくれる。―――頼りになるんだ、私の補佐官は。」
「――――私情を抜きで、か?」
ミケさんの思いもよらない一言に驚いた。
ミケさんはいつもエルヴィン団長に対して従順だから。
お互い気心しれた仲だとはいえ、エルヴィン団長が隊長のころに班員としてミケさんがいたそうだ。ずっとエルヴィン団長の直下で支えてきた経緯があるからか、エルヴィン団長に何か進言したり釘を刺すところなんて、初めて見た。
エルヴィン団長も恐らく同じ理由で驚いてはいたが、少し嬉しそうに――――ふ、と笑った。
「ああ、私情を抜きでだ。」
「――――承知した。」
そう言ってミケさんもまた部屋を出た。