第112章 狐疑
「――――線引きをするなら、最初の壁の破壊―――――シガンシナ区陥落時に壁外調査に出ていた面々は、敵である可能性は極端に下がりますね。そこを基準に選定されますか?あ、でもだとすると……エレンを護衛するリヴァイ班は全員対象外になってしまいますね……。」
「…………。」
「………どうしました?」
「…………君がこの案を受け入れて――――、まさか進めるために考えを深めるとは思わなかった。」
「………意外でしたか?」
「ああ………。人でなしと、冷血と、罵られる覚悟だったんだが。」
ふふ、と小さく笑みを零すと、ナナもまた小さく悲しい笑みを見せた。
「――――本当は少し辛いです。でも、一番辛いのはあなただから。」
「――――………。」
「言ったじゃないですか、分けて欲しいと。多くの仲間を死なせる業を背負うなら、私も共に背負います。多くの仲間を騙して、死なせる。でも――――必ず、ちゃんとその死に意味を持たせる結果を残す。いつか真実に、必ず辿り着く。それが私たちの進む道だと、あなたの横で学びました。」
「――――そうか……。」
めまぐるしく変化する。少女から女へ、そして立派な兵士へ、私の右腕へ。命を救うために調査兵団に入った君に、命を切り捨てる作戦を突き付け、理解をさせる。
――――君はリヴァイのことで、俺に相当残酷な事をしていると言っていたが、それこそお互い様だ。
俺は君に――――とても残酷な事をしている。
「――――あの、色々……ありましたが。」
「ん?」
「今言ったことは全て――――、あなたのことを愛しているから出て来る、心の底からの言葉です。――――信じてもらえたら、嬉しいです……。」
「――――とても理解したよ。」
「――――一言先に謝ります。」
「何をだ?」
「執務中ですが、少しだけ公私混同させて―――――。」
ナナはそう言うと、俺をぎゅっと抱きしめてキスをした。その唇は柔く甘くて、俺の罪深い判断も全て赦してくれるようで、尚更この存在を離せないと痛感する。
心の底から愛していると、俺だけのものだと、誰にも渡さないと伝えるように、強く強く抱きながら何度も唇を重ねた。