第112章 狐疑
「いえ………でも、想像にすぎません。だから確かめないといけない。」
「そうだな。」
リヴァイの言う通り、ナナは兵士としては弱い。だがこの精神の強さは並大抵のものじゃない。なんて頼もしいのかと、ため息さえ零れる。
その強さを信じて、途方もなく残酷で血の通わないような作戦の構想を書き連ねた紙を見せた。
すると、いつものように突拍子もない問が返ってきた。
「――――いいのですか?私に見せて。」
「ん?」
「私が外の世界から来た敵じゃないという保証はありませんが。」
「――――………君は巨人になれるのか?」
「今のところはなれませんね。」
「―――……ふ…っ……。」
「―――……ふふ。」
こんなシリアスな場面で、思わず笑みがこぼれる。
「――――君の身体の中の最奥まで知っている俺が、君はただの人間の女だと保証しよう。」
「………言い方が厭らしいですよ。団長。」
「――――君はこれを見て、どう思う。」
改めて作戦案をナナの目の前に提示する。
本当は少し怖い。
人の命を救うために生きている君に、多くの―――――しかも仲間のほとんどを騙して、死なせて、目標を達そうとする俺の策を見せるのは。
ウォール・マリア奪還作戦の時にも、君は俺を信じたかったと言っていた。人を救うために采配をする団長であると信じたかったと。
だが、そんな甘いことは言っていられない。中途半端に守ろうするだけでは、未知の脅威に勝てるわけがない。未知の脅威に一矢報いるために――――相手の考えすら及ばない次元の、残酷な策を打つ。
ナナはその内容をじっくりと読んで、静かな目を俺に向けた。
「――――実行するには、作戦の本質を知らせる団員を選定する必要がありますね。――――命の線引きに近しい、残酷な線引きを。」
「――――……その通りだ。」
やはり受け入れられないだろう、と思って目を伏せた。