第111章 牽制
「リ、ヴァイ……さん……に、約束を破らせてしまうのも……嫌です……!」
「――――約束より大事な物を守るためなら、そんなものは簡単に捨て去れる。」
「…………!」
「約束より何より、お前が大事だ。ナナ。」
「―――私はそんなに大した人間じゃない、ですよ……。」
「そうだな。……ただの女だ。だが―――」
私の肌を暴いてそこに口づけを降らせながら、両手を封じていたその手を離してただただ強く、私の腰に両腕を回して、折れるのではないかと思うほどに抱き締めた。
「―――俺にとっては、全てだ。」
小さな子どものようにぎゅっと私にすがり付く。
「私が死んだら、リヴァイさんは生きていけないのですか……?」
「そんな簡単に死にはしない。生きては行ける。ただ、それだけだ。生きて―――色のない毎日を消費するだけだ。」
この人はなにをそんなに怯えているのだろう。
私以外にリヴァイさんを愛している存在など、いないと思っているのだろうか。その世界を色づかせてくれる存在がいないとでも言いたいのだろうか。
こんなにも、たくさんの人が―――、あなたを想っているのに。
「―――それは違います……。」
「……あ?」
「―――あなたが気付いていないだけで……あなたの周りには、私以外にもたくさんの新しい感情をくれる人が……あなたの世界を彩ってくれる人が、いるでしょう……?」
私の言葉に、リヴァイさんは私を乱そうとするその手をぴた、と止めて―――私を見下ろした。
「あなたの仲間、助けた人、関わった人……その全てがあなたの世界を彩っているんです。もし私が何かしたんだとしたら、そのきっかけになる―――鍵を開けたくらいのことです。そこからはリヴァイさん自身が人と関わって、創ってきた世界じゃないですか。だから私がいなくなったからといって、世界は色褪せたりしません。あなたの感情が無くなってしまうこともない。リヴァイさんは、私を買いかぶりすぎです。」
「―――……。」
「――――そこまで想って貰えて、嬉しい……ですが。」
目を見つめて諭すと、リヴァイさんは頭の中でこれまでのことでも思い返しているように彼もまた、私の目の奥を見つめた。