第111章 牽制
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「行くな。――――俺を、少しでも愛しているなら。」
愛していないはずがない。
少しどころか、この胸の奥底で――――ずっと、変わらず想い続けている。いやむしろ、13年前よりもリヴァイさんのことを知って、想いを重ねてしまってから―――この想いは募るばかりだ。
でも、それは今言ってはいけない。
また止められなくなる。
「――――私は、エルヴィン団長のご判断に従います……。」
「あいつはお前の意志を尊重する。『行かない』『行きたくない』と言え。」
「それは、できない……。だって、もし大事な仲間が―――――リヴァイさんが傷ついたら、私が治したい。だから行くんです。」
「俺が傷なんかつくわけねぇだろう。舐めるな。」
「――――すごい自信……。」
「――――いっそその右手の指も、動かなくすればいいか。医者としても役に立てなくなりゃ、行く理由もなくなる。」
「…………!」
その狂気すら感じる言葉に心臓が震えた。
リヴァイさんが私の右手をとり、ぎり、と力を込められる。
ゆっくりと至近距離でリヴァイさんの目を見上げると、やはりどこか泣き出しそうな目を細めている。この目に私は弱い。
抱き締めて、ずっと側にいたいと願ってしまう。
「――――やっぱりリヴァイさんは、怖いひとです………。」
どれほど私を愛してくれているのか、わかる。
他の人のものである私に、ずっと変わらぬ愛情を注いでくれるこの彼の献身は、酷く怖くて――――――強く美しくて、悲しくて、とても苦しい。
俯く私の顎を掬って、その視線を捕らえられる。
「わかるか、どんな手段を使ってもお前を行かせたくない。」
「………私だって諦めない……。」
「――――今度こそここでお前をめちゃくちゃに抱いてしまえばいいか。エルヴィンに見せつけてやればエルヴィンは怒り心頭だろう。そして―――――エルヴィンがお前の羽を捥いで、閉じ込めてくれるかもしれねぇな。」
その言葉にびくっと身体が反応する。
それだけは駄目だ。またエルヴィンを追いつめてしまう。
そしてまた後悔させる。
調査兵団の大事なこの時に、私のことなどで彼を乱してはいけない。心が安らぐ私でいなければ。