第111章 牽制
「なんだ。」
「――――次の壁外調査に、ナナは連れて行くな。」
「――――何故だ?」
「――――気が散る。」
「……それは今に始まったことじゃないだろう?それに――――ナナが隊にいたとしても、“兵士長”としての判断は鈍らないと前々の調査でお前は証明してみせたじゃないか。」
こいつも分かっているはずだ。
これからは、これまでと比にならないほどの危険を伴う調査になるということを。だが俺の言葉に首を縦に振らないということは―――――何があっても、連れて行く覚悟をしているんだな、お前は。
「――――エレンの存在が明るみになった以上、今までとは桁違いの危険度だ。」
「それは理解できるが。」
「――――兵士として弱い奴から、かなりの確率で死ぬ。ナナも―――――死ぬぞ。」
「――――………。」
「いいのか。お前はそれで。」
「――――ナナが望むなら、連れて行く。」
絶対的にナナの意志を尊重するというその建前に苛立った。
違うだろう。
お前の本性は―――――心の奥底は。
「――――理解ある団長のふりはもういい。」
「…………。」
「――――ナナが死んでもいいとでも思っているのか。」
それを問うた時のエルヴィンの表情を、俺は見逃さなかった。
微かに、ほんの僅かに一瞬、口角を上げた。
そしてまた冷静な、いつものエルヴィンに戻った。
「――――共に生きるなら、共に死ぬこともまた道理だと言うのか、お前―――――。」
「――――ナナも合意の上だ。」
「―――――………!」
「もういいか?一刻も早く作戦の土台を考えたいんでね。これで失礼する。」
そう言ってエルヴィンは俺に初めて胸の内の闇を垣間見せて―――――、薄暗く湿った、淀んだ空気の地下牢から去っていった。