第111章 牽制
俺の頼みも虚しく、頑なに譲らない。
だが、それは俺も同じだ。
今回の壁外調査の危険度は今までと比べものにならねぇ。
エレンと同じ、巨人の力を操れる奴がエレンを殺しに来たら―――――、知性のある巨人が俺達に襲い掛かったら――――……何十人、何百人死ぬだろう。
嫌な想像が頭の中を占める。
俺の見えないところで、エルヴィンの目すら届かないところで、巨人に引き裂かれながら――――最期に俺の名を呼ぶナナ。その画はまるで現実のように頭の中に浮かんだ。ナナの断末魔と吹きだした血の色まで鮮明に。
――――息が詰まる。
気まずそうに両手を胸の前に置いて指を遊ばせているナナの腕を強く引いて、その腕の中に閉じ込める。
「――――リヴァイ、さん……。」
「――――行くな。――――お前の命を諦めるのは、俺が俺でなくなるってことだ――――………。お前がもし、死んだら………っ………。」
その先を、ナナを失ったあとの自分を想像もできない。
いつかナナが『側にいたい人は自分で決める』、泣きながらそう俺に言ってきてから、ナナの意志を尊重しようとしてきた。それがこいつに相応しい愛し方だと思ってきた。
ナナが生きているなら、例え俺の横でなくたって、エルヴィンの横であっても――――お前が笑っているならそれでいい。
やっと――――長い時間をかけてそう思えるようになった。
だが、お前がこの世からいなくなったら…………生きる意味の根幹を失ったら、俺はどう生きていけばいい。
「………でも………。」
ナナの反論を遮るように、その腕に力を込める。頼むから、聞き分けろ。
「―――――ナナ。行くな。――――俺を、少しでも愛しているなら。」
「――――……っ………。」
最も狡い言葉を吐く。
ナナは小さくぴく、と反応した。