第111章 牽制
「――――エルヴィンがどういう作戦を立てるか知らねぇが、荒れる。お前がいると、気が散る。」
「――――視界に入らないようにします。」
「駄目だ。」
「例え死んでも、捨てて行っていい―――――……。」
「『そうか、なら俺の視界の外で死ね』と……言えるわけねぇだろうが……!」
俺が声を荒げると、その小さな体を猛獣に睨まれた小動物のように震わせて、大きく開いた怯えた濃紺の瞳が俺を映した。
「――――兵士長としてリヴァイさんが私を見殺しても、恨みません。」
「恨むとか恨まないとかじゃねぇ……。」
雪の日の壁外調査のあの瞬間の絶望が蘇る。
そうなれるように望んできたはずなのに、リンファが死んだことよりも何よりも、ナナを見捨てる決断をした、それをできてしまった自分に絶望した。
きっと壁外調査に出てしまえば、俺は私情を挟むことなく兵士長として、あの日のようにまたナナの命に見切りをつけて任務の遂行を優先する。
兵団にとってベストな選択が、できてしまう。
そして―――――いつかナナを見殺しにする。
そうなれるように今まで散々言い聞かせてきた。
だが心の奥底にいる、どうやったって消せない兵士長でないただの俺自身が、ナナを見殺した事実をきっと受け止められない。
「――――頼むから、行くな。」
「……私だけぬくぬくと、安全な場所で帰りを待つなんてできないです……。私は力もないし戦えないけれど、治癒することはできる――――……調査兵団の一員だと、思っています。」