第111章 牽制
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兵士長としての自覚は持ってるつもりだ。
兵団にとって必要なら、ナナの大事な家族同然のエレンすら力でねじ伏せてみせた。
だが、やはりどこかナナを完全に切り離せないのは――――、今まで以上に厄介なことが、死と隣り合わせの毎日が始まる、そんな予感がたまらなくするからだ。
明日からエレンを連れて古城に籠る。
壁外調査までの約一か月、今までのように常に側にはいられない。
その間に別の巨人を纏える人間がこの界隈を襲ったら、今度こそナナは死ぬかもしれない。
本当は今こうして会いに来るべきではなかったのかもしれない。それでも足が向いたのは―――――、無理だと分かっているが、こいつの性格上、首を縦に振るはずもないが―――――、淡い期待をぶつけてみたかったからだ。
「――――わざわざエレンの事を言いに来てくださったんですか。」
「―――……いや。」
「他にも何か、ありましたか?あ、……ぎゅって、しますか?」
ナナがきょとんとした顔で一瞬考えて、そうだ、とばかりに両手を広げた。
俺はガキか。
「――――ガキじゃねぇ。」
「ふふ、残念です。」
ナナは小さく笑って腕を降ろした。
「――――一か月後の壁外調査。」
「??はい。」
「行くな。」
「――――……え………。」
「ここで待て。足手まといだ。」
「――――……いや、です……。」
ほら見ろ。
言う事を素直に聞く奴だとは思っていなかったが、やはりまず拒否する。ナナは眉を顰めて俺を上目遣いで少し怪訝そうに見つめた。なぜ今さらそんなことを言うの?とでも聞きたいのだろう。