第110章 審議
「今回の襲撃を受け、エレンを英雄視する民衆……主にウォール・ローゼ内の民や商会関係者の反発が高まり、その結果我々に残されたこの領土を巡る内乱が生じかねません。彼の巨人の力が今回の襲撃を退けた功績は事実ですが―――――実害を招いたのも事実。故に、エレンの人体を徹底的に調べ上げた後、処分するのが妥当との結論です。」
その言葉に、カッとなって顔を上げた途端――――、予想していたように、リヴァイ兵士長が鋭い声で私を制した。
「―――――堪えろナナ。」
「………は、い………。」
その一言で私は自分の中に冷静さを取り戻した。
そうだ、私が信じなくてどうする。
エルヴィン団長とリヴァイ兵士長が大丈夫だと、必ずエレンを調査兵団に迎え入れると言ってくれた。これ以上頼もしく、信じられることなんてない。私は大きく深呼吸をして、また真っすぐにエレンを見つめた。
「――――では次に調査兵団の案はどうかね?」
「はい。調査兵団13代団長エルヴィン・スミスより提案させて頂きます。我々調査兵団はエレンを正式な団員として迎え入れ、巨人の力を利用しウォール・マリアを奪還します。以上です。」
「ん?もういいのか。」
「はい。彼の力を借りればウォール・マリアは奪還できます。何を優先すべきかは明確だと思われます。」
エルヴィン団長の迷いのない目と言葉は、その審議所の空気を丸ごと飲んでしまうほどだ。まるでそれ以外の策などあり得ないと言うように、その言葉の説得力がじわじわと増していく。
「……そうか。ちなみに今後の壁外調査はどこから出発するつもりだ?ピクシス。トロスト区の壁は完全に封鎖してしまったのだろう?」
「ああ、もう二度と開閉できんじゃろう。」
「東のカラネス区からの出発を希望します。シガンシナ区までのルートは……また一から模索しなければなりません。」
おおよそエルヴィン団長の案に多くの傍観者が頷きそうになった空気に耐えられないとでも言うように、王都の有力者らしき人物が声を張り上げた。