第110章 審議
「さぁ……始めようか。」
ザックレー総統がこれまでの長所を手に取り、内容を確認しつつエレンに問う。
「エレン・イェーガー君だね?君は公のために命を捧げると誓った兵士である……違わないかい?」
「はい……。」
「異例の事態だ。通常の法が適用されない兵法会議とする。決定権はすべて私に委ねられている。君の生死も今一度改めさせていただく。異論はあるかね?」
エレンが腹を括ったような顔で答えた。
「――――ありません!」
「察しが良くて助かるよ。この事態は異例を極め、相反する感情論がこの壁の中にひしめいておる。ある者は君のことを破滅に導く悪魔と呼び……またあるものは希望へと導く救世主と呼ぶ。」
―――――リーブスさんの言った通りだ。ウォール・ローゼを死守したいもの、またはウォール・マリアを奪還しないことには命のカウントダウンが始まっている民衆の目には、エレンは救世主に移るだろう。
だけどその民衆に発言権はない。
全ての決定がなされるこの場にいるのは、エレンを葬ろうとする――――王都側の人間たち。
それは憲兵団のナイル師団長の言葉からも明らかだった。
「中央で実験を握る有力者達は彼を脅威と認識しています。王族を含める有力者達は5年前や今回の事態を受けてもなお壁外への不干渉を貫いています。」
――――その言葉を聞いて、冷えた笑いが込み上げる。それと相反して、私は拳を握りしめていた。
この期に及んで―――――、領土を奪われ食料を奪われ、生きる場所を奪われ死んで行く民衆がいる中で、壁外不干渉を貫く政治の中心。
一体何を見て、何を治めようとしているのか――――。
ぎり、と唇を噛んだ私を、隣にいたリヴァイ兵士長が横目でちらりと見た。