第110章 審議
「ナナ………。」
エレンと数秒視線が絡んだ時、私の背後でミケさんがすん、と鼻を鳴らした。思わず振り返ると、『そら見ろ』とばかりにふっと意地悪な笑みを零した。
「………だから、これは違って……!」
「はいはい、もうミケ!動揺するナナが可愛いからって意地悪しないの。」
ハンジさんがパンパンと手を叩いて制してくれる。そして門番のように檻の側にいた憲兵に向かって話しかけた。
「ねぇそこの憲兵のお兄さん、早く檻開けてやってよ!うちのナナがいる限り、エレンは逃げやしないからさ!」
エレンの拘束が解かれ、檻が開けられた。私は思わず駆け寄って、手を伸ばした。両手でエレンの両方の頬を包み込み、その目を覗き込んで、心が病んでいないか、光が宿っているかどうかを確かめる。
するとエレンはほんの少し安心したように、ふ、と息を吐いて僅かに笑った。
「――――俺は大丈夫だ、ナナ。」
「そう………。」
その言葉を聞いて手を離す。
大きく、強くなったんだと思った。
ハンジさんが私の頭にぽん、と手を置いて、エレンを審議所に向かうように促す。
「さ、あまり説明する暇も無かったけど……エレンが思う事を言えばいいよ。」
「え?」
何のことだかわからない、と言った顔のエレンに向かって、これだけは伝えたかった。
「――――エレン、あなたの思うままでいい。だけど信じて。エルヴィン団長を――――、調査兵団を………!」
私に後ろ髪を引かれるような小さな動揺を含んだ目線を残しながら、エレンは憲兵に連れて行かれた。
そこはまるでエレンを裁くような――――――多くの畏怖の目が突き刺さる、磔台のような場所だった。エレンが身動きが取れないように、後ろ手を拘束されたまま磔けられて跪かされる。――――まるで罪でも犯したかのような扱いに、私は内心穏やかではなかった。
そこにはザックレー総統はもちろんピクシス司令と、ナイル師団長、エルヴィン団長とリヴァイ兵士長。
錚々たる顔ぶれに背筋が伸びる。
少し離れた場所にミカサとアルミンの姿もあった。