第110章 審議
「―――逆説を唱える人もいるのは、聞いたことはおありですか?」
「死にもの狂いの俺達と対極な意見が出るのは、決まって王族やら王都の人間と神を妄信しているイカれた宗教団体とかだ。あいつらは壁が破られることの重要性を分かっちゃいない。まだ被害を被ってないからな。壁を……ウォール・マリアを取り戻さなきゃ俺たちはじわじわ死を待つばかりだ。ウォール・マリア奪還の――――わずかでも希望を見いだせるなら、俺達は巨人になれる小僧を支持する。トロスト区はもちろん、次いつ自分達の身に起こるか不安で夜も眠れねぇウォール・ローゼ界隈の民間人は、大多数が支持派なんじゃねぇか。」
その言葉に、ほんの少しだけホッとした。
エレンが生きる事を望んでいる、エレンの力を頼りにしている人がいるということが単純に嬉しかった。
「――――巨人化できる力の使い道をめぐって、また争いが起こるのでしょうか……。」
「――――どうだろうな。他人の生き死によりも自分の身が可愛いもんだからな、人間ってのは。完全に一致団結なんてできっこねぇんだ。相手がどれだけ強大であろうと。信じるものも違う、それに私利私欲が先に立つ。現に俺もそうだ。やっぱり自分と自分に近しい人間が一番大事だ。」
「……それは、当たり前のことですよ。」
「ふっ………。」
リーブスさんが苦笑いをした。
「どうしました?」
「いや……、俺たちは巨人に滅ぼされる前に、内地での人間の殺し合いで滅びるかもしれねぇと、そう思ってよ。だとしたらどこまでも――――滑稽な話だ。」
「――――嫌な想像ですね。だけど―――――すごく想像できてしまう、嫌な画を。」
そう言って私たちは目線を落として、これから先の暗雲立ち込める未来を想像した。
そして私は空を見上げる。
今頃―――――エルヴィン団長とリヴァイ兵士長はエレンに面会している頃だ。
何を話しているのだろう。
エレン、その人たちは信じられる人、あなたと共にこの世界を変えていく人。
だから向き合って、ちゃんとその心の内を話して――――――そう心の内で繰り返した。