第110章 審議
「―――よぉナナ、生きてたか。」
その時、背後から威圧的で強い語気の言葉が飛んできた。
振り返るとそこには、眼光鋭いリーブスさんが立っている。
「リーブスさん。すみません、急に。心配で様子を見に来てしまいました。」
「そりゃありがてぇ。……まぁ大大大損害だが、命あっての物種だ。生きてただけ儲かったと思うほかねぇな。」
「そうですね、生きてさえいればなんとかなります。」
俯いた私の方をチラッと見て、苦々しい口調で話し出した。
「――――そう言えば兵士の中にクソ生意気な女がいてよ。」
「女……?」
「あれは訓練兵のマークだった。黒髪の女だ。この俺を脅して来やがった。――――おかげで捨てさせられた荷が山ほどある。」
「そうだったんですか。でも、リーブスさんも仰ったように――――、命あってこそ、ですから。」
「あぁまぁ……そうだな。」
チッと小さく舌打ちをして、バツが悪そうにリーブスさんは目を逸らした。
「――――それで?話があって来たんだろ?」
「――――はい、商会の中では今回の一連の出来事やこれからのことを、どんな風に捉えて、どう考えているのかな、と。私たちが守るべき民間人の心の動きを一番把握されているであろう方に話を聞きたく。」
リーブスさんの自尊心を少しくすぐれたのだろうか。リーブスさんは上機嫌に話してくれた。
「あぁ、あれだろ。巨人になれる人間がいて、そいつがあの壁の穴を塞いだってやつだろ……。にわかに信じられなかったが、あの大岩があそこにあのまま突っ込まれてるのを見たら……信じるしかねぇよな。」
「――――その巨人は、人類の味方だと思われますか?」
「ああ、でなきゃなんで壁の穴をわざわざ塞ぐ?元々俺は巨人に人間が勝てるなんて思っちゃいねぇ。そこに巨人になれる人間が出て来たとなりゃ――――、一発逆転もあり得るじゃねぇか。俺の周りでも、巨人どもに反旗を翻す狼煙になりうる英雄だと言う奴らが多いぜ。実際にその論を会報誌にして説き初めている奴もいる。――――まぁ俺は、そんなヤバイ橋は渡らねぇがな。」