第110章 審議
遺体回収と疫病対策のための消毒作業も終わり、トロスト区復興のための民間人の出入りも許されるようになった。
そこで私は彼らの影響力の強さを垣間見た。
リーブス商会だ。
翼の日以降、毎年交流を続けている彼ら親子に会いに来た。
リーブス商会の立派な建物は巨人によって破壊され、リーブスさん自慢の豪華な調度品たちも散乱している。そんな中でもめげずに復旧作業に精を出しているフレーゲルさんを見つけて、声をかけた。
「――――お久しぶりです、フレーゲルさん。ご無事で良かった。」
「ああナナ……!ほんと、たまげたよ……まさか巨人が俺たちの街を闊歩する日が来るなんてよ……。」
フレーゲルさんは物憂げに倒壊した自社の建物を見上げていた。
「そう、ですね………。」
「親父に用かよ?」
「はい、できればお話を。」
「待ってろ、呼んでくる。」
フレーゲルさんの背中を見送って、街を見渡す。
遺体は回収されたものの、至るところに血の跡が残っている。そう言えば、“そういうもの”として理解してしまっていたけれど―――――、なぜ巨人の血は残らないのだろう。血どころか遺体も骨の破片すら残らない。
何もないところから出現して、なにも無く朽ちる。
そんなことが、どういう原理で起こるのか。
ぼんやりと見つめていると、ふと見覚えのある倒壊した家屋を見つけた。あれは、リエトを見つけた場所。リエトの母親が下敷きになっていた建物だ。
まざまざとあの日の地獄絵図が脳裏に蘇る。
私は小さく、ぶるっと身震いした。