第108章 対策
弟のように可愛がっていたエレンを、ナナはさぞかし心配しているだろう。会わせてやりたいのはやまやまだが、憲兵は必要以上にエレンを危険視している。故にごく限られた人間しか面会を許さない。
一先ずは私とリヴァイで相対することになりそうだ。
内地でもエレンの噂は広まり、英雄視する民衆と脅威論として淘汰を望む民衆に極端に分かれている。このまま行けばおそらく、殺処分せよという意見が強くなるだろう。
なんとしてもエレンの身柄は我々調査兵団で預からなければならない。
エレンの意志に影響を与えられるナナと、エレンを力で牽制することができる唯一の存在のリヴァイ。調査兵団以上にエレンを預かるに最適な組織はない。
そしてエレンのその力を以ってすれば、巨人の謎に―――――、この世界の謎にまた俺たちは一歩近づける。
「……エレンをどうか、宜しくお願いします……。」
ナナは律儀に私に頭を下げた。
今の私は調査兵団団長のエルヴィン・スミスだ。私情は挟まない。だが―――――、弟にも近しい愛する者を失って泣く彼女を見たくない。彼女の笑顔の為にもエレンを死なせない。そんな小さな私情は、頭のごく片隅にしまい込んでおこう。
「ナナ!!!ちょっと実験について相談に乗ってよ!!!」
「あっ、はい!!すぐ行きます!……ではエルヴィン団長、私は少し離席します。」
「ああ。」
ハンジに呼ばれてナナはその場を後にした。
「――――ロイ、今回大変な活躍だったと噂に聞いた。礼を言うよ。」
「いえ、エルヴィンさんこそ激務だったでしょう。お疲れさまです。」
「――――初めて巨人を見たんだって?」
「ええ。気持ち悪い生き物ですね。」
「そうだな。」
あまりにストレートに嫌悪感を全面に出した顔でロイが答え、思わずふっと笑みがこぼれた。この姉弟は本当に、飽きない面白さがある。