第10章 愛執
「―――――――――――っ………はぁっ………。」
「落ち着け。大丈夫だ。ゆっくり息をしろ。」
「は………い…………――――――んっ…………。」
一度解放した唇を、滲んだ血を舐めとるようにして角度を変えてまた塞ぐ。
ナナの身体から力が抜け、呼吸が落ち着いていくのがわかる。唇を離し、ナナの顔を手で包み込む。これまでにないほど、涙で滲んだ目に俺が大きく映っていた。
これ以上触れてはならない、後戻りできなくなると、そう思う反面、覆せない程の欲として俺を支配する。
「……お前の唇を奪いながら……あいつは何て言った?」
「…………っ………。」
ナナの下唇を親指でなぞりながら、残酷にもその場面を思い出せと唆す。
睫毛が触れそうなほど近くで、逃れられないと悟ったのか、ナナは苦しそうに目を逸らす。