第108章 対策
「5年前のシガンシナ区陥落で悟ったの。医師として微々たる人命を救うだけでは、この世界は変えられないって。こんな――――、こんな現状を丸ごと打破する、それができるような人たちに出会ったの。それが――――調査兵団のみんなだった。」
「――――………。」
「彼らといれば、私はなんでもできる気がするから。」
「――――……俺にはそんな勇気も、崇高な理念も……ないです。」
「――――崇高でもないし、勇気もないよ。邪念もある。」
昏く沈む表情のジャン君の顔を覗き込んで、ふふ、と笑って見せる。そんなに私が崇高な人間に見えているなんて、ジャン君は随分自分を卑下しているみたいだ。
「邪念?」
「―――――心から愛している人たちがいるから。生きてる間も、死ぬときも、彼らの側にいたいの。」
「…………。」
「不純な動機でしょ?」
「………いえ……。」
「―――――明日、心が抉られることもあると思う。でも、彼らを弔うことができるのも、彼らが死してまで戦ってくれたことで私たちが生きてるから。だから、私たちがやらなきゃ。――――できる?ジャン君。」
「―――――はい……!」
「いい返事。頼りにしてる。じゃあまた明日ね。」
僅かだけれど、ジャン君の目に生気が戻った。
彼がどんな選択をするのかわからないけど―――――、自由の翼を背負ったジャン君を、見てみたいな。
そう小さく想いながら、その場を後にした。