第108章 対策
「死者の名前を書きとめるリストも作った。あとは、この任務に当たる人たちの心が―――――心配なだけ、かな………。」
「心?」
「――――一緒に戦った仲間の無残な遺体と向き合うのは―――――、辛いでしょ………。」
「――――そんなものなの。僕には、わからないけど。」
ロイが感情を見せずにそう言ったから、私はあまり深く考えずに例え話をした。
「例えば、ロイは私の無残な遺体は見たくないでしょ?」
その一言に、ロイは凍てついた表情で目を見開いた。そして私の腕を強く掴んだ。
「――――っ、ロイ……?」
「冗談でも言うなよ。笑えない。」
その目は憤りに満ちている。
随分ロイは変わったと思っていたけど、それでも私に対する執着は完全には消せていない。それはそうだ。長年かけて積み重なったものが、そんな数年で変わるはずがない。
「――――……ごめん……。」
私がしゅん、と謝ると、ロイは腕を離して少し気まずそうに目を逸らした。
「――――そうだ、薬も持って来たから渡しとく。」
「あ……ありがとう……。」
「――――前処方したのは破棄して。新しいやつを持って来た。」
「わかった………。」
「――――僕が言うのも気が引けるけど………、そんなもの、使わないようにしてくれるのが一番だよ。―――――もう使った?」
「――――ううん。」
「――――そう、ならいい。」
何かあった時に、自分の身を守るための薬。
それを一度私は飲んだ。
ロイに小さな嘘をついた。
せっかくロイはエルヴィンをとても信用している。
そしてエルヴィンはロイに弱いところを見せたことがない。だからエルヴィン自身が後悔していることをわざわざ言うべきでもないし、なによりせっかくのロイのエルヴィンを慕う感情に、影を差したくなかった。