第107章 肯 ※
「むしろ『だめ』とか『やめて』とか言っちゃったほうが火をつけちゃいそうで。」
「――――ちっ……無駄に俺のことをわかってんじゃねぇ。腹立たしい。」
リヴァイさんは私の両手を解放して、自分の前髪をくしゃ、と乱して俯いた。
「私はリヴァイさんのこと、全然まだまだ知らない、わからないことだらけですよ?ただ―――――。」
「ただ、なんだ。」
「あなたが“仲間”と“約束”をどれだけ大事にしているか、それらを必ず守ろうとすることは―――――知ってるつもりです。」
リヴァイさんが大事にしているものは私も大事にしたい。
だから私も身体の奥底の欲望を押し込めて、この距離感を保つ。ただの上官と部下の関係に満足できなかった私たちの、“リヴァイさんとナナ”というこの世で一つしかない歪でおかしな関係。
「――――約束すらどうでもよくなるほどお前に毒されて――――理性がぶっ飛んで、お前を犯す日が来ねぇといいがな。」
「相変わらず物騒です。」
私がくすくすと小さく笑うと、興が冷めたようにリヴァイさんはふっと息を吐いた。
「明日は朝から駐屯兵団の兵舎に呼ばれてる。移動時間もある。早く寝ろよ。」
「はい。おやすみなさい、リヴァイさん。」
「――――ああ。」
―――――部屋に戻り、ベッドに潜り込む。
色んな事があり過ぎた。
1人になると途端に吐き気すら催すほどの酷い画が頭の中にいくつも蘇る。身体がガタガタと震える。
とても眠れそうにない。
いけないな、明日も朝が早いのに―――――、そう思いつつどうしても寝つけず、小さく外の世界の歌を歌う。
いくつ歌を歌っただろう。
窓から見える三日月も、その位置を随分変えた。
その時、控えめな足音がうっすらと聞こえた。
エルヴィン団長が―――――ようやく帰ってきたのかもしれない。
出迎えに行くべきか悩む。
でも相当疲れているだろうし、かえって迷惑かも―――――、でも怪我がないかどうかは聞きたい………。あれこれ悩むくらいなら顔だけでも見て安心したいと思いベッドを抜けて、そっと扉を開けてその足音の主を確認した。