第10章 愛執
団長室から、ナナのいる部屋へ向かう。扉をノックしても返事がなかった。
そっと扉を開けると、眠るナナを抱きしめていたハンジと目が合った。ハンジはゆっくりとナナをベッドに寝かせると、ため息をついた。
「…………ねぇリヴァイ。」
「………なんだ。」
「ナナが、泣くんだ。子供みたいに、声を上げて。」
「…………そりゃ、怖かっただろうよ。」
「ううん、違う………。あなたに必要とされなくなることを、怖がって泣くんだ………。」
「………あ?」
「迷惑をかけたから、もう側に置いてもらえないって思ってる。『私は優秀な部下でいないと、リヴァイさんの側にいる資格がないのに』………これが、ナナの心の底から出てきた叫びだよ。」
「…………。」
「伝えて、ないの?ナナの事を、部下としてじゃなく大切に思っているって。」
「………大切に思う、なんて綺麗なもんじゃねぇからな。言えねぇよ。こんな、汚ねぇ感情。」
「………守りたい、だけじゃないってこと?」
ハンジが俺の顔を遠慮がちに覗き込む。
「守りたい、どころか………この手で汚してしまいたいとさえ思ってしまう。閉じ込めて、俺だけしか見えないようにして、俺なしでは生きていけないようになればいい。」
「……………。」
「言ってみて自覚したが、俺が抱くこの汚ねぇ感情は、ビクターのそれと何が違うんだろうな。いつか、俺はあいつと同じことをして、またこいつを傷付けるのかもしれねぇ………。」
「…………そこに気付いて、それを自制している。それは強烈な愛だと、私は思うけどね。」