第10章 愛執
「お前が許せなかったのは、ナナに手を出されたからだ。違うか?」
「………だとしたら、なんだ。」
空気が張り詰める。
エルヴィンは一度も目を逸らさず、俺の内側の黒く淀んだ感情を引きずり出そうとしている。
「彼女はお前の専属補佐だがそれは業務上の話であって、お前の所有物ではないぞ。」
「……………。」
「仮に、いつか彼女が共に夢を追う相手を他に見つけられたとしても、お前はそれを許さないのか?」
「それは、自分だとでも言いたいのか?」
「………それは彼女次第だな。お前が自分のエゴで彼女を縛るなら、私はお前から彼女を奪うぞ。どんな手を使っても。」
蒼い眼が俺を射る。
敵に回してはいけないとよぎるのは、本能だろうか。だが、こればかりは容易に了承することはできない。
「宣戦布告か。」
「……いいや、忠告だ。自分をコントロールできないような人間に、大勢の兵士の命は預けられない。……自分でも感じているだろう?彼女が来てから、お前はめまぐるしく変化している。彼女によって新しい感情を齎されているためだろう。それも全て、制御できるようになれ。そして常に考えろ。お前にとって、彼女にとって、兵団にとって何がベストか。」
「…………そうだな………期待に添えるよう、善処しよう………。」