第106章 危局③
エレンを見て驚いた。
――――顔面が吹き飛んだ状態で、大岩に寄りかかって動かない。
「――――どういうこと……?」
「何をしているんだ……エレン……!」
アルミンが動かないエレンの項に降り立って、その中にいるのであろうエレンに語り掛ける。それでも一向にエレンは何の反応も示さない。
離れたところで巨人を食い止めているのは、ミカサとイアンさんたちだ。
苦戦していることが見てわかる。
いつまでもここにエレンを置いて置くわけには行かない。どうやら人間と同等に、この巨人化したエレンは巨人を引き付けてしまうらしい。
「アルミン、何とかしてエレンをここから出そう……!」
「でも、どうしたら……!」
「………無理矢理、起こすには……どうしたらいい……?」
「ナナさん……、僕に考えがあります……!」
アルミンが怯えと希望の入り混じった目で私を真っすぐに見た。信頼に足る、いい表情だと思った。
「――――任せる。私はほんの僅かでも――――ミカサ達を手伝って来る。」
「はい!!」
――――なんて強く、逞しくなったのだろう。込み上がる嬉しさを感じながら、苦戦をしているリコさんの班に合流する。
「調査兵団のナナです!援護します!」
絶望の影が落ち始めていた精鋭班の皆の目に、僅かに希望の光が灯る。それはきっと“調査兵団”という響きが彼らに少しの希望を与えたのだろうと思う。今私は自由の翼を背負っていないけれど、その誇りだけは忘れない。
「……援護ってあんた……そんなブレードの持ち方で……。」
「――――問題ないです。」
リコさんが呆れた顔で言葉を漏らしたけれど、いつもの訓練通りにやればいい。動かない左の人差し指と中指の代わりに、逆手で持って親指でトリガーを操作する。左でに刃はつけられないから項は削げないけれど、仲間に伸ばされたその腕を切りつけたり、視界を奪うことくらい、私にだってできる。私に出来ることをやるんだ。
「…………やるじゃないか………!」