第106章 危局③
エレンが巨人だった?なぜ?いつから?そんな違和感のようなものを感じた事なんて一度もなかった。
エレンは敵なのか、味方なのか―――――、その強大な力で何を望むのか……もしエレンが私たちと相反する望みを持っていたら―――――、私は、私たちはどうするのか。
戦うのか、殺し合うのか?
いつか――――――。
頭の中が混沌と良くない想像で埋め尽くされていく。
「ナナ。」
「……は、はい…っ……!」
「――――あの巨人から出現した人物を知っているようだが?」
「は、はい………。訓練兵のエレン・イエーガーです。家族同然に過ごした、弟のような……存在で……。」
ピクシス司令の問でようやく良くない思考を断ち切って我に返る。
「ほう、それは好都合じゃ。」
ピクシス司令が後ろの駐屯兵団の兵員に目で合図を送ったと思ったその時、私は後ろから両手を拘束された。
「―――――え………?」
「あの力が吉とでるか凶とでるか。凶と出た時に備えて、ナナ。悪いがお主には――――――、あれを従わせるための人質になってもらうぞ?」
「………そんな……っ、彼は、彼は人類に仇を成すような子じゃ―――――!」
「それが証明されればすぐ解放し、非礼を詫びよう。お主の好きな菓子も贈る。少しの間だけ辛抱してくれ。――――人類の命運を賭けるこの時じゃ。さすがに切り札くらいは持っておらんと。定石を実直に行使するからこそ、たまの奇策が功を奏する。」
――――そうだ。つい以前からの親しみやすさから安心しきってしまうが、この方もまた底の読めない方なのだ。
でなければ、これだけの兵士を、これだけの領土の守りを一手に担えるわけがない。
私は抵抗することもなく、それに従った。