第106章 危局③
壁の下ではエレンとアルミンとミカサが兵士に囲まれて銃口と砲口を向けられている。
それはそうだ、また巨人に変身して暴れまわったら―――――人類に牙を剥いたら、一瞬で我々は終わる。兵士たちの恐怖がその銃口としてエレンに向けられているんだ。
でも信じたい。
エレンは決して人を傷付けるような子じゃない。
巨人を恨みこそすれ、人に牙を剥くような子じゃない。
――――優しい、子なの。
「やめさせてください……!エレンは、なにもしません……っ……!」
「まぁ落ち着けナナ。なにも今すぐ殺そうなどと思っているわけじゃない。」
私の言葉も虚しく、その現場の指揮をしている人物の合図によって、エレン目がけて壁上から砲弾が放たれた。
「やめて――――――っ!!!」
とても見ていられなくて、目を閉じて俯いた。
大きな爆音と爆風と共に聞こえたのは―――――多くの兵士の恐怖に満ちた叫び声だ。
『うわぁあぁあああ!!!!』
「―――――ほう、なるほど。」
ピクシス司令の好奇心を含んだ静かな声が、私の目を開かせた。
「―――――エレン……ッ……!」
見下ろした先には、どうやって現れたのか――――――大きな巨人の……いや、巨人になり損ねたような、筋肉と骨がむき出しの―――――まるで兵器のような禍々しい生き物だった。
それはまるで大切なアルミンとミカサを守るようにして、不完全なまま、でも確かにそこに存在していた。