第105章 危局②
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「―――――おい、やけに冷静じゃねぇか。」
退路の馬を駆るエルヴィンに、冷えた言葉を投げる。
ナナがいるトロスト区を巨人が襲撃した可能性が高い。それにしては随分―――――、こいつは冷静だ。
もっと取り乱すと思ったが。
「―――――冷静でなければ、最善の判断ができない。」
「それはそうだな。」
「どう思う、リヴァイ。」
「あ?」
「5年前もそうだ。そして今回ももし襲撃があったとしたら。」
「―――――俺達がいない時を狙ってやがる。」
嫌な予想だ。
巨人という脅威が、自然界に存在する弱肉強食だけの、人間の天敵という存在であるだけならどんなに良かったか。
だがその僅かな望みはもう消え入りそうだ。
これは明らかに―――――策略によって齎された、人類への攻撃だ。
「―――――俺達人類が邪魔になったために何者かが排除しようとしているのか、はたまた―――――。この壁の中で起こっていることと同じ、結局は人間の業が生み出す諍いか―――――。」
「………あ?」
「実に興味深い。」
「………おい、その言葉は適切じゃねぇ。」
「ああ失礼。」
とことん読めない―――――、恐ろしい男だ。
その頭の中で、何を考えているのか分かったもんじゃねぇ。
このイカれた男にとって特別な存在であるナナが、もし帰着して、そこに変わり果てて転がっていたら、エルヴィンはどうするのか。
そして俺も――――――どうなってしまうのか。
想像すら躊躇う。
そうこうしていると、右翼索敵から赤の信煙弾が放たれた。