第105章 危局②
その時、アルミンと思わしき叫び声を聞いた。
目の前でエレンが死んだ。精神が崩壊してもおかしくない。
それに―――――まだ目の前にはエレンを食った巨人がいる。逃げて。早く、アルミン……!
「アルミン……っ……!」
アルミンもまた、この世界の謎を解き明かす鍵になる子だ。エルヴィンと同じ―――――頭が良くて、勘が良くて、きっとこの世界を変えて行ける。
死なせない、絶対に。
私はアルミンを庇うようにして巨人の目の前に立ちはだかって刃を向けた。
――――無駄な足掻きでも。
例え一瞬でも。
そう―――――あの時だって、たった数秒持ちこたえるだけで、助けに来てくれた。きっと今、調査兵団のみんながこっちに向かってる。そう信じて足掻く。
それでもやはり一瞬の死を覚悟したその瞬間、目の前の巨人の喉奥から何かが込み上げて―――――口から、その頭を内側から破壊するような衝撃と共に突き破った。
それは―――――間違いなく、腕だった。
「――――――なっ………!?」
その衝撃で巨人は倒れ込み、突っ伏した。
私は目を疑った。
その背中を割るようにして出て来たのは――――――別の、巨人だ。15mくらいはあるだろうか、比較的大きな――――――均整のとれた体系をしている。筋肉もしっかりした、黒髪が揺れる巨人。
「なに……?!なんなの………っ………!!」
そしてその巨人は、けたたましい雄たけびを上げた。
更に不思議なことに――――――目の前にいた私たち人間には目もくれず、数十m先にいた巨人に向かって歩き出し―――――、確かな殺意を持って、その拳を振りぬいた。
殴り飛ばして地に伏せた巨人を追って、頭を踏みつぶして、それはまるで留めまで刺したかのように見えた。
「―――――奇行種……?にしても、普通の、奇行種とも……違い、過ぎる……!」
巨人が去って、呆然とする私の横で、ようやくアルミンが我を取り戻したようにハッと顔を上げた。
アルミンが無事と分かった以上、私はあの特殊な巨人の動きを余すところなく記録して、エルヴィン団長に―――――ハンジさんに、報告しなくてはならない。
私は再びメモを手に、その場を離れてその15m級の巨人を追った。