第105章 危局②
私の制止も聞かず、エレンはアルミンを飲み込もうとする巨人の方に向かって飛んだ。
「だめ、エレン……行かないで……!死んで、しまう……!」
エレンに手を伸ばしても、捕まってはくれない。
この子はいつだって自由で、私の想像の遥か上を行く。
その口の中からアルミンを引きずり出して―――――、その口ががちん、っと音を立てて閉じられた後に残ったのは、泣き叫ぶアルミンと――――――――――
身体を無くしたエレンの腕だけだった。
「―――――……そんな………うそ、でしょう………?」
嫌というほど残酷な想像をした。
この世界の真実を。
それに抗うために、その真実を暴くためにここまで――――自分の武器を、磨いてきたつもりだった。
決して自分が強くないことも分かっている。
エルヴィン団長やリヴァイ兵士長みたいに、多くを守ろうなんて大それたことは思ってない。
それなのに。
それでも。
成長を見守って来た、家族とも言える大事な存在1人すら守れない。私は―――――あまりに、無力だった。
「―――――………。」
泣き崩れると思うな。
あの頃の私とは違う。
自分の無力さなんて、今に知ったことじゃない。
「――――はい。私がすべきことをします。―――――エルヴィン団長。」
その場から立ち上がる。
涙はまだ、流さない。