第105章 危局②
「―――――ひっ………!」
大きくはない。5m級か。
それでも、リエトを抱えて戦闘はとても無理だ。かといってこんな、いつどこから巨人が飛び出して来るかわからない場所にリエトを置いて戦えない。
逃げるしかないけど――――、逃げ切れる、のか………?
心臓がぎゅっと縮んだ。死を、意識したんだろう。身体の能力を最大値まで引き上げようと、全身にくまなく血液を送ろうとしている。
「でも、私の戦闘力じゃ……!」
巨人がどしん、どしんとこちらに近づいて来る。私はもう一度リエトを強く抱いて、立体機動を試みるが、それでなくても指に力が入らない左手が、役に立たない。
「どうしよう、どうしたら―――――!!」
巨人がにたりと笑いながら私たちに手を伸ばした瞬間、その声が聞こえた。
「―――――ナナさん?!!?」
「―――――!!!」
その声の主は巨人の後ろからその足を切り込んだのか、巨人は崩れ落ちた。
「――――削いで、やるっ……!」
そしてその頭上から、項を削ぎ落とした。見覚えのある彼は――――リンファを訪ねてきた彼だ。
「――――ジャン、くん……。」
「やっぱりナナさんですよね?!何してんですか!?!」
「この子を、逃がそうと思って……ありがとう、助かった……!」
「いくらガキでも、ナナさんが抱えて立体機動なんて無茶でしょう!俺が内門まで連れてくんで、ナナさんは自分の身を守ってください!」
「ありがとう……!」
私はリエトをジャン君に託した。
「おねぇちゃん、行っちゃうの?」
「うん。この強いお兄ちゃんが、リエトを安全なところまで連れてってくれる。良い子でいてね。」
「また、会える?」
「――――会えるよ。」
笑ってリエトの頭を撫でると、ジャン君は軽々とリエトを抱えて飛び立って行ってくれた。