第105章 危局②
「指揮官が必要だ。ピクシス司令には伝達が行ってるはず……!ピクシス司令に少しでも詳細の情報を伝えないと……!」
壁上から見たその光景は、まさに地獄絵図そのものだった。
見下ろす街で、人が―――――食われる。
阻止しようとした駐屯兵団が、まるで人形のようにその身体を裂かれる。
駄目だ、駄目。
こらえろ。
感情に任せて飛び出して行ったって、兵士として私が救える命は知れてる。
それよりも私がすべきことは――――――………
「やだぁああぁっ!!!おかあさぁああん!!!」
「!!!!」
小さな男の子の声。
下を見ると、家屋の下敷きになって意識もない母親に縋りついて泣く小さな子がいる。
数百m先には、巨人の姿が―――――
「駄目、私が―――――行ったって…………!」
ぐっとペンを握り締めた。
「たすけてぇえ、だれか……っ……!」
その声に、耐えられるはずが無かった。
私はメモとペンを胸ポケットに押し込み、壁から飛び降りた。落下する引力をガスの噴射で少し抑えながら、近くの建物にアンカーを刺して地面に降り立った。
泣きじゃくる男の子の側に、膝をついて目線を合わせる。
「ぼく、名前は?」
「……リエト………。」
「リエト。私と行こう?」
「いやだ、だって、お母さんは?!」
「―――お母さんはね、リエトを守りたいの。」
「いやだ、一緒にいたい……!」
「一緒にいたら、リエトは巨人に食べられてしまう。」
「いやだ、こわい……。」
リエト、その名に呼びかけ、クセのある赤みがかったブラウンの髪を撫でながら目を見て話す。