第104章 危局
左の二体はどちらも15m級ってとこか。奇行種でもない、動きものろまだ。瞬殺してやる。
これ以上―――――死なせてたまるか。
先に近づいて来た一体の背後の高い建物の壁にアンカーを打つ。奴の首を軸に、急旋回して項を狙う。
障害物の多い地下街で、急旋回は不可欠な技術だった。他の奴らは滅多にやらねぇ、地下街出身の俺達の十八番だ。想定通りその首を軸に項に回り込み、削ぐ。
そのままそいつを踏み台にして二体目に近づく。
もうこれまでに5体削いだこの刃もそろそろなまくらと化してる。両方の刃を、二体目の目を目がけて投げつけると、避けることも防ぐこともせず、のろまなそいつの視界を封じた。
間抜けが。
その頭の上で刃を替え、右手の刃を逆手に持ち替える。
「――――大人しくしてろよ。そうしないとお前の肉を―――――綺麗に削げねぇだろうが。」
頭上から高く飛び上がり、落下の引力を斬撃に乗せてその項を削ぎ落とす。
―――――他愛ない。
拭き出した血が俺の手を濡らす。
「……ちっ……汚ねぇな畜生。」
巨人の血はすぐに蒸発するが、それでも手に塗れると不愉快だ。ハンカチで拭いながら、さっきの兵士の元を見舞う。
「ペトラ、そいつはどうだ。」
「兵……長……。」
ペトラはナナに救護の基礎を学んでいた。手早く処置をしたようだが、それでも腹部から溢れんばかりの出血は、そいつの最期を物語っていた。
同時にペトラの困惑と焦りの表情が濃くなる。
「血が……止まりません……。」
「…………。」
「兵………ちょ……。」
途切れる息の合間に、俺を呼ぶ。その兵士の死にゆく瞬間に相対する覚悟をしてその場にかがんだ。
「なんだ。」