第104章 危局
「―――――アーベル、ケイジ、オリバー、カーラ。」
『はい。』
「伝達を頼む。退却する。」
「えっ?!」
「?!」
「退却……?!」
「………!」
「――――リヴァイには私から伝える。アーベルは右翼前方部隊から後方部隊へ。ケイジは右翼後方部隊から前方部隊へ順次伝達。オリバーは左翼前方から後方、カーラは左翼後方から前方。それぞれ右翼・左翼でお互いが落ち合ったら、戻れ。」
4人とも驚きを隠せない顔を見せた。が、私が理由を言わずとも指示を理解したようだ。
『はいっ!』
頼もしい返事と共に、4人は任務遂行のために散った。
私は近くにいるはずのリヴァイを探した。通りにはリヴァイが倒したのであろう巨人の亡骸が転がっていて、それが消え行く蒸気の中を過ぎて、リヴァイを見つけた。
「――――リヴァイ!退却する。」
「……退却だと?」
不機嫌そうな顔でこちらを振り返る。その足元には、息を引き取ったのであろう仲間が横たわっていた。
「おいエルヴィン、まだ限界まで進んでねぇぞ?俺の部下は犬死にか?理由はあるよな?」
「――――巨人が街を目指して一斉に北上し始めた。」
「!!!??」
「5年前と同じだ。街で何かが起きてる。壁が―――――破壊されたかも、しれない。」
ナナ。
すぐ戻る。
生きていろ。
――――皮肉なものだ。
君を壁外調査に連れて来れば良かったと―――――置いてくるんじゃなかったと思う日が来るなんて。
馬の手綱を握るその掌に汗が滲んでいる。
団長の私でいる間には、動揺など微塵も見せない。それが、調査兵団団長のエルヴィン・スミスだ。
その手に生じる微かな震えを―――――、無理矢理押さえつけた。