第104章 危局
調査兵団が前泊した宿舎の最終確認や支払い等を一旦済ませて、帰還後の後泊のための手続きの準備をする。
連泊という扱いではない。
――――――なぜなら、帰ってくる人数が必ず、減っているから。
仲間が泊まった部屋の忘れ物などの確認をしながら、想いを馳せる。ここで寝息を立てていた仲間が、帰って来ないかもしれないこと。
もしかしたら、私がその背を見送った2人が、ハンジさんが、ミケさんが―――――大事な人が、帰って来ないかもしれないこと。何度見送っても、何度調査に出ても慣れることは、ない。
宿舎関連の雑務を終えて、今度は帰還後の怪我人を処置できる場所や医療器具を準備する。いかに早く処置するかで、生存率は変わってくる。もちろん病院に運び込むこともするが、私がこの場で診た方が良い場合は、診る。
そして救ってみせる。
―――――あの日、ショウさんを救ったお母様のように。
そして全ての準備が整ったのは、もう昼を回っていた。そう言えばトロスト区は避難所以外のことを私はよく知らない。せっかくなので探検してみよう、もしかしたらエレンやミカサ、アルミンとまた会えるかもしれないと街を歩く。
中央の大通りから、今朝調査兵団が出立した壁門がよく見える。その付近のリフトに乗って、訓練兵団の兵士が何名も壁上に上がって行くのを見つけた。その中には見慣れた黒髪の少年―――――エレンだ。どうやら、壁上固定砲の演習でもしているのだろうか。
「――――そうか、訓練兵団って立体機動や戦闘だけでなく、こういった訓練もするんだ……そうだよね。駐屯兵団になったら――――、街を守ることが使命になるんだから。」
訓練兵団を経ていない私には、とても新鮮でその光景を見つめていた。何を話しているかは分からないが、エレンが仲間となにやら楽しそうにしているのはわかる。