第104章 危局
開門の前。
もう皆騎乗して、準備も万端だ。
一瞬、エルヴィン団長が私の方を見た。壁外調査の時は一切私情を挟まないエルヴィンが。
ほんの僅かに口角を上げて、笑んだ。
その意味は、
行って来る。必ず戻る。待っててくれ。
帰ったら―――――めちゃくちゃ抱く。
………まぁ、そんなところだろう……と思うと、僅かに頬に熱を持つ。
「――――うん、待ってる……。どうか、無事で――――……。」
エルヴィン団長が前を向き直して、開門まであとわずか数秒。
その時に私は見た。
リヴァイ兵士長が―――――、少し目を閉じて、クラバットに唇を寄せた。
「…………つけて、くれてるんですか………。」
誕生日に贈ったそれを、まだ大事にしてくれている。
おまじないのようなことなんて一切しないリヴァイさんが、それに口付けをした。その行動は、どうしても私に向けたものだと思ってしまう。
決して目は合わない。
けれど―――――、必ず戻る、待ってろと、言ってくれたんだと思う。
「――――待ってます………。」
2人の後ろ姿……その自由の翼を目に焼き付けるように見つめる。
胸が苦しい。
もし、2人に―――――どちらかに何かあったら。私はどうなってしまうだろう。自分が死ぬかもしれないよりも、何倍も怖い。
けれど、大丈夫。彼らは必ず帰ってくるから。
そう言い聞かせた。
天気は上々だ。荒天による不利益はないだろう。澄み渡る冷えた空気と共に広がる青空に、エルヴィン団長の号令が響く。
「開門!!!!!!進め―――――――!!!!!!」
それに続く蹄の音。
それを後押しするような大歓声。
立ち上る砂埃の合間から、その背中を見送った。
「――――どうか、どうか無事で―――――………。」
私は強く強く祈った。