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【進撃の巨人】片翼のきみと

第103章 850年




避難所をでて、宿舎に戻る。

――――なんだろう、なんだかずっと、嫌な視線を感じる。不安な胸を抱えて歩く速度を上げようとした時――――後ろから、腕を強く引かれた。



「――――おい、お前……久しぶりじゃないか。」

「………誰、ですか……?」



振り向いた先には、無精ひげを蓄えた、小太りの中年の男が嫌な笑みを浮かべている。



「――――髪、伸ばしたんだなぁ。いいじゃねぇか、よっぽど女らしくてよ。」

「………なんの、こと……ですか……。」



――――怖い、嫌な……予感しかしない。性的な好奇心を向けられていることにゾッとする。



「また、買ってやるよ。」

「―――やっ!!なに……っ!」



ぐいぐいと強い力で路地裏に引き込まれる。買う?身体を、という事――――?汗が噴き出す心地がした。

ジャケットの襟元を開こうとして掴まれた瞬間、私の間に誰かが、割って入った。








「ナナに触るな。クソ野郎。」








見慣れないその背に背負われた、剣が交差するエンブレム。さらさらとした黒髪と、随分低くなったけれど、その声は――――



「――――エレン……?」



その名を呼んだ瞬間、エレンはその男を思い切り殴り飛ばした。



「だめエレン!!」



カッとなると手がつけられない。気性の荒さは変わってない。エレンを背中から抱き留めて、落ち着かせる。

男は鼻から噴き出た血を拭いながら、震える足を何とか立たせて去っていった。ふーっと、興奮を吐息に混ぜて吐き出すエレンに、語り掛ける。



「あり、がと……。まさか、エレンに助けてもらう日が、来るなんてね。」



ようやくエレンの荒い息が落ち着いた。

背中からエレンを抱き留めて思う。もうあの頃の――――私の可愛いエレンとは違うんだ。

私よりも大きい。

まだ幼さはあるけれど、訓練兵団での過酷な訓練も乗り越えてきて――――、もうしっかりと兵士の、エレンだ。

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